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2005.11.06

機械と脳

『生命とは、情報の流れの中に生まれた結節点のようなものだ。種としての生命は、遺伝子という記憶システムを持ち、人はただ記憶によって個人たり得る。たとえ記憶が、幻の同義語だったとしても、人は記憶によって生きるものだ。コンピュータの普及が記憶の外部化を可能にした時、あなたたちはその意味をもっと真剣に考えるべきだった』
[攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL 『人形遣い』のセリフより]

NHKのスペシャル番組「 サイボーグ技術が人類を変える(2005年11月5日 放映) 」を見た。案内役の立花隆氏が日経のコラムにも書いてらっしゃるので、詳細やリンクなどはそちらを見ていただくとして(実は私も、友人から電話が掛かってきたので最後まで見られなかった。録画しているので後日見ようと思っている)、私が最も印象に残ったのは「機械によって脳をコントロールする」という技術だった。

パーキンソン病などの、脳の障害によって正常な運動能力を奪われる難病の患者にとって、これは朗報だ。
映像では、勝手に動き出す手足や、あるいは思うように動かなくなってしまう表情筋などに悩まされていた───否、そうした症状で『普通の暮らし』はおろか『人間としての誇り』すら奪われそうになっていた人々が、脳に取り付けた微細な電極が送り出す電気信号によって、そうした「神経細胞の誤報」によって起こる障害に悩まされることなく、『普通の人として』活き活きと暮らしている様子が映っていた。治癒はしなくとも、『普通の暮らし』をおくることはできる。それがどんなに幸福で有り難い事か、自分の身体が自分のコントロール下にあるという事が、どれほどの安堵と心の平安をもたらすか、今の私はもう良く知っている。

だが、もしも───と思う。もしも今、誰かが私に「感情の暴走をコントロールする電極を付けてみるかい?」と言ったら、私はどうするだろうか。
なんの前触れもない絶望感や、状況に合わない自責の念や、突然の落ち込みから解放してあげよう・・・と言われたら?
即座に思った。「運動野の障害を機械でクリアーするのは良い。しかし、感情を機械にコントロールされるのはゴメンだ」と。
そんな事、とんでもない、と。
あきれた話かも知れないが、そう考えると私にはこの憂鬱さえ「愛おしい」と思えたのだ。

ご存知とは思うが、私は機械に好意的だ。サイボーグ技術の進化も興味深いし、もしも自分が実験台になれるような事態に陥ったら、進んで研究材料になろうとも思う。視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚、そして知覚。まだすこし壊れ気味の私の脳がキャッチする感覚はどれも愛おしいし、その脳が描き出すビジョンも私を飽きさせない。だからそれらを維持できるのなら、義手や義足や、ぶっちゃけ義体でもかまわない。しかし・・・だ。私の脳をエミュレートするならともかく(いや、それも気味悪いが)、コントロールされるのはゴメンだ。

抑うつ症状とは、脳内の神経伝達物質のひとつであるセロトニンの欠乏によっておこるとされている。足りなくなったセロトニンをうまい事使い回すか、あるいは外部から補ってやれば、その症状はかなり緩和する。補充に役立つ物質は薬だけではない。オメガ3脂肪酸(EPA)や、亜鉛などの必須ミネラルなども有益だとされているし、意識して日光を浴びる事も効果があるとすら分かっている。───って、こんな科学的分析をする患者もどうかなぁと主治医に苦笑されたのだが(笑)

話がそれたが、つまりはそういう事なのだ。
けして機械が人間にとってかわるのではない。人間が、もっとも人間らしく生きられるようにするための技術。人間が人間として生きるための補助装置。それがサイバネティック理論であり、サイボーグ技術なのだろう。
そうであって欲しいものだ。

幻耶麻のオススメ本:人間機械論ノーバート・ウィーナー

追記)番組中には、サイボーグ技術で視覚を取り戻したものの、装置開発者の死によってメンテナンス不能となった機械の老朽化につれて、再びじわじわと視力を奪われつつある中途視覚障害者も描かれていた。なんて残酷な話なのだろう。誰か、彼にもう一度新たな光を。そう祈らずにはいられなかった。

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