[絢爛舞踏祭]
───2252年9月6日 10:30 アキダリアを出航
・・・ヤガミの表情が暗い。
出航前のブリーフィングまでは、いつもの冷静なあいつだった。珍しく自室で休んでるなと思ったら、出てくるなり、これだ。
何かあったのだろうか。
あいつには何か目的があって、それで俺をこの世界に呼び出したのは、いくら俺だって分かっている。
それが何か、マズい事になっている、というところか。
確かにもともと鉄仮面な奴だけど、あんな顔を見ているのはたまらない。
何があったんだ、ヤガミ。───なんて聞いたって、口が裂けても言う奴じゃないんだけど。
俺は、あいつの意志に添えているのだろうか。俺はうまくやれているのだろうか。俺に何か出来る事はないんだろうか。
そんな事ばかり考える。訓練にも身が入らない。全然ダメ。
クソ、俺はあいつを気に入ってるんだ。仕事人間でしょっちゅう過労で倒れていようが、冗談が通じなかろうが、手料理ふるまってもちっとも感動がなかろうが、謎が多かろうが、そんな事はどうでもいいんだ。
俺はあいつを気に入ってるんだ。俺を必要だと言った、そして俺なら出来ると言ったあいつを。
けれど、足が艦橋に向くたびに、アラートが鳴るんだ。
俺はここで何をしているんだろうか。俺のやっている事は正しいのだろうか。同じ太陽系人の艦を沈めながら、俺はずっと考えていた。
矢も盾もたまらなくなって、帰艦するなり艦橋に向かうあいつを追った。
呼び止めても、理由など聞けるわけもなくて、俺はただコーヒーを勧めるしかなかった。
「口に合うか?」「努力はしてるな」
───そんないつもの台詞しか交わせないんだけど。
・・・そのまま艦橋で、クソ真面目に飛行長席に座っているあいつを眺めていた。
しばらくして、あいつが伸びをして立ち上がり、・・・俺を見た。
気付かれた。
油断していた俺は、とっさに戯けたポーズを取って見せた。いつものあいつならバカにするくらい、変なポーズを。せめて笑ってくれ、思いきりバカにしていいから、と思いながら。
───よりによってあいつは、俺と同じくらい変なポーズを返してきやがった。あの、ヤガミ ソーイチローが。
俺は、噴き出した。あいつも、笑っていた。
大の男が二人して、何やってんだか。そこでお互い我に返って、素知らぬ顔で一緒に艦橋を出た。エレベーターホールで、何も言わずに別れた。
あいつは大丈夫だ。俺はその時そう思った。
だったら俺も、腐ってなんかいられない。やれる事をやるまでだ。
OVERS・SYSTEMに言わせれば、まだまだ先は長いらしい。
だから、これからもよろしくな、飛行長。
合成食材の手料理で良けりゃ、いつでも作ってやっから。
火星独立軍・RB『希望号』パイロット:ユーティス・ウー