2253年07月05日 ママは何でも知っている。

マリネリスを出航、第二種戦闘配置。
───戦闘経験の豊富なアストラーダ艦長はいつも慎重だ。都市船出航時の警戒体制も、ずいぶん長い。

[エリザベス]戦闘になるかもしれないねえ。
上甲板エレベーターホールで、エリザベス副長がそう俺に声をかけてきた。
[ユーティス]・・・何事もなければ、いいんですけどね。
俺がうなずくと、ビッグ・ママはどこか哀しそうな顔で誰に言うともなく続けた。
[エリザベス]エステルは、あの子はもうネーバルウィッチの故郷、母船団には帰れないだろうね。体のいい捨て駒だよ。
[ユーティス]・・・・・・
[エリザベス]悲しいねえ。あの子は悲しいだろうに、そういう気持ちを誰かに伝えることも出来ないんだよ。親しい友人も何も、いないからね。私じゃ年が離れすぎてね・・・。

・・・それじゃ、ママは何もかも気づいていて、エステルを艦長に───自分の後任に据えたのか・・・。俺は今さらながらに、ビッグ・ママの配慮に胸を打たれた。
そして、そんな彼女には、エステルには俺がついてますなんて、こっぱずかしい事は口が裂けても言えなかった。
きっとママは、そこまでちゃんと知っているんだろうし、ね。

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2253年06月29日 ノアキスに再入港

珍しく、ヤガミの方から「腹が減ったな」と声をかけてきたので、食堂で差し向いで飯を食った。
あいかわらずヤツは蓄積疲労でフラフラしてるんだが、尋ねても「俺は大丈夫だ」の一点張り。どうせ言っても聞かないので、放っておく事にした。
そういいながら、トレーニングルームでサンドバッグ殴ってる俺も、素直じゃないんだが。
───あぁそうだ、休めと言っても聞かないのがもう一人いた。タキガワだ。こいつもフラフラしているクセに、じゃあ休めと言っても笑うばかりで聞きゃしない。倒れないだけヤガミよりマシだが。
え、俺? ちゃんと倒れずに仕事してるよ。でもそう言えば、しばらくベッドで寝てないか・・・。

・・・まあ、飛行隊の3名は、揃いも揃って素直じゃない、ってコトだ。

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2253年06月27日 リクエスト

第五異星人の討伐艦隊と接触

・・・あのさMAKI、キミが真面目なのはわかってるんだけど、いくら結果があがってきたからって、戦闘出撃直前に教育プログラムの結果をどどっと送ってくるの、止めてくんないかな。プリフライトチェックと結果の確認を同時にやるのは、いかに俺でもどっと疲れるんだけど。機体に乗り込む前に疲労で倒れたくないよ、俺は。

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2253年06月26日 ノアキスに寄港

そんなわけで、都市船に寄港するたびに兵員の人事に忙殺される俺である。もっとも、ただ忙しいのはシャクなので、ヤガミが勤務中の時はわざと飛行長席で仕事している。MAKIと盛んにやりとりしている俺に、さすがにそこを退けとは言えないらしく、おかげでする事のなくなったヤツは暇を持てあましてあちこちウロウロしているというわけ。それでも、勤務中だと外出しないのが、いかにもヤツらしいと思う。

───日付が変わって、何気なくハンガーデッキに行った俺は、士翼号3の整備状況が良くないのに気づいた。
士翼号3といったって、無論、大尉が乗っていたヤツじゃない。とっくの昔に交換済みの、いまさら誰が乗るわけでもない予備機だが、俺はどうしても放っておけず、朝までかかって100%の状態にしあげた。
いまさら、誰が乗るわけでもないんだけれど。

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2253年06月18日 ひとりごと

勝ったり負けたり、制圧したり撤退したりして毎日が過ぎていく。一進一退の毎日にじれったいと思う時もあるが、俺自身は艦長なんてガラじゃないから、まぁこんなものだろうなと思いながら自分の仕事をしている。仕事? おいおい。───戦争に慣れるってのは怖いもんだな。
あれ以来、パイロットは増員していない。ご先祖サマ付きで飛んでいる生まれついてのパイロット・タキガワはともかくとして(あいつをコクピットから引きずり出すのは、ポイポイダーを水密服から出して上陸させるようなもんだろう)、俺はもう誰にも死んで欲しくない。だから、だ。
ついでに、俺の撃墜数が300として、沈めた艦一隻あたり何人乗り組んでたかと考えると・・・俺って大量虐殺者? と思ったのもある。そんなヤツ量産してもしょうがないでしょう。───いや、だから、タキガワは仕方ないとして、だ。
もっとも、俺もタキガワも、最近はもっぱら撃墜命令を無視して制圧に走る。攻撃さえ止まりゃいいんだ。乗員の命まではいらない。

 [タキガワ]───俺、訓練大好き。人が死なねえから。

デコイビーコン相手の訓練後にそう言った、照れくさそうなタキガワの笑顔を俺は忘れてない。

・・・で、そうやって制圧すると、《夜明けの船》に引っ張られる人材もいるわけだが、仲間はみんな、人に頼むくらいなら自分でやった方が早いなんてタイプばかりだから、ほっとくと仕事にありつけずにウロウロしているヤツばかりが増える。それの配置をMAKIにアドバイスするのは、もっぱら俺。
そう考えると、何もなければヒマなだけの飛行隊は、航行中は艦橋に張り付きっぱなしの部署よりも、やっぱり俺向きなんだろう───。

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王様の道化師

 ・・・人と違う服を着て、人と違う事をする。不思議な仮面の下に自分自身を隠した男。人は彼を見て笑い、そして彼を怖れる。
 彼自身は誰をも怖れず、王の誤りすら指を差して嘲笑い、しかし、最後はその王の身代わりとなって命を落とす。彼なき王は、自らがその役割を果たすしかない。それはとても惨めなことだ。

 人々の心の奥底に抑圧された欲望を、容赦なく白日の下にさらけ出し、堕落した秩序を、真理をもって破壊し尽くす、無垢あるいは狂気。
 狂気にかられ万物を焼き尽くそうとする偽りの太陽。王である太陽の身代わりに生け贄となる宿命(さだめ)の、冷たい月に操られる負の英雄。
 彼の戯けた仕草は苦痛であり、彼の悲しみは喜びである。彼の愚かさは叡知であり、その叡知ゆえに彼は狂気に走る。

 ───それが、道化師(the Fool)。万物の端緒であり、それ自身でもあり、またすべてが最後に帰り着く場でもある『絶対零度[the Absolute Zero]』。
 どの世界にも属さず、運命の円舞にも加わらず、山の尾根、花咲く小道を、空を見上げて夢見るようにひとり歩く若者。
 その行く手には断崖が口を開け、その足下では獣が牙をむく。その衣装はぼろぼろで、荷の袋には穴が空いている。
 それでも若者は、そんな事は知らぬげに、舞うように踊るように、歩き続ける。一輪の花を手に、誰も知らぬ叡知だけを供として。

 そんな事を思い出したのは、俺が───希望号が、その特異な外観とトリッキーな動きから、《夜明けの船》という女王に付き従う『道化師』とあだ名されて、敵に怖れられている、と太陽系総軍出の乗員に聞いたからだ。(地球の海の時代から、船は女と相場が決まっている。女性代名詞で呼ばれるからだ)。
 火星独立軍には恐るべき道化師がいる。───なるほど、そうかも知れない。蒼い光の中で、狂ったように踊る道化師が。
 
 では、俺自身が運命を嘲笑う道化師だとして、俺が従うべき王は誰だろう? ・・・やっぱり、アイツかな?

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2253年06月11日 新たなる出航

ノアキス出航直前。スイトピーが艦所属の政治家として出席する2回目のブリーフィング。議長をつとめるのは艦長のエステルだ。そのふたりを、エリザベス現副長が優しく見守っている。
スイトピーは、制圧か臨検か、だったポー教授とは一線を画する議案を出してくる。そして意外にも、というか、嬉しい事に、というか、ヤガミがスイトピーの議案を2回とも支持してくれている。前回の政治工作案は時期尚早として棄却されたが、今回、余剰人材をアルカディアで解放するという議案は賛否が2対2、最終的に艦長の決断で採択となった。

───お嬢、がんばれよ。お父さんの分まで。そしてエステル、お前はもう艦失者じゃない。今はこの《夜明けの船》がお前の艦だ。しっかりやるんだぞ。
・・・いつものように、壁にもたれて会議を傍聴しながら、俺は心の中で、ふたりにそう呟いていた。───彼女達にチャンスをありがとう、ビッグ・ママ。

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2253年06月10日 空と君のあいだに

都市船ノアキス。───エステルが一人でベンチに座っている。どこか寂しそうな眼差しで街並みを見つめていた。
[ユーティス]・・・どうしたんだ、エステル?
俺が声をかけると、エステルは、俺を綺麗な瞳で見上げた。

[エステル] 知恵者が言っていました。汝は選ぶと。
そう言うと、エステルは俺の方へと手を差し出した。
[ユーティス]・・・何を、選んだ?
俺は、その手をそっと取った。
[エステル] 太陽系とネーバルウィッチだったら、迷わなかったと思います。
彼女は、俺の手を強く握った。
[ユーティス]───だから、何を選んだ?
少しの沈黙があって、彼女は、言った。
[エステル] ・・・あなたを。
[ユーティス]・・・・・・。
エステルはにっこり笑うと、立った。
俺は、エステルの細い手を強く握り返した。そのまま引き寄せて、抱きしめてやりたかった。けれど、彼女の指は俺の手をなんなくすり抜けた。
[エステル]・・・艦に戻ります。ネーバルウィッチの居場所は、船以外にはないから。
そう言うと、彼女は、走って艦に戻っていった。
[ユーティス]・・・・・・。

俺がお前の居場所になってやる。・・・そう言い切れないのがつらくて、ただ黙って、彼女を見送った。
このいまいましい期限さえ切られてなけりゃ、心から約束できるのに。お前のそばにいるよと───。

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2253年06月10日 変化

ドランジに続きハリーが戦死したことで、艦内人事に若干の変更が生じた。
航海長にクリサリス、そして水雷長にポイポイダー。ポイポイダーは以前から「私に魚雷のボタンを押させよ」と話していたから、やっと希望が通ったというところか。

[ポイポイダー]・・・私の名前はポイポイダー。誇り高い小笠原のバンドウイルカ知類。私は私の小さな客のために戦う義務が生じた。それは、イルカがイカを捕まえるように、当然で絶対の義務だ。私に魚雷のボタンを押させよ───。

・・・あの心優しいバンドウイルカにそこまでの怒りを抱かせるとは、トシロー・スミスの極悪ぶりがホントによく分かろうというものだ。
ポイポイダーの、いつも微笑んでいるようなあの表情、あの綺麗な瞳に、どんな惨劇を見せたというのだろう、スミスの野郎は。

[ポイポイダー]私に魚雷のボタンを押させよ───。

そして・・・なんと、政治家にスイトピー! 艦長のエステルとあわせると、スゴい事になったなぁと思わざるを得ない。それぞれ補としてエリザベス初代艦長が副長に、そしてポー教授がアドバイザーとして付くというが、やはりこれは超若返り作戦だ。

以下が現在の状況だ。

艦長 :エステル・エイン艦氏族・アストラーダ
副長 :エリザベス・リアティ
航海長:クリサリス・ミルヒ
航海士:マイケル・コンコード
水測長:サウド・モハメッド・アル・サウード
水測員:ミズキ・ミズヤ
操舵手:アイアン・ソブリン
副操舵手:MPK4501
水雷長:ポイポイダー
水雷手:イカナ・イカン
飛行長:ヤガミ・ソーイチロー
機関長:ネリ・オマル
機関員;ニャメ・ナナ・ニャンコポン
飛行隊:ユーティス・ウー
飛行隊:小カトー・タキガワ
整備一班:クララ・ド・シラヌ
整備二班:───
軍医長:サーラ・シェーシャ
看護師:東原 恵
甲板長:メイ・カイロン
掌帆長:グランパ
陸戦隊長:ヘイハチロー・ノギ少将
陸戦隊:カオリ・サザーランド
陸戦隊:リン・ハックマン
陸戦隊:セラ
政治家:スイトピー・アキメネス・シンフォリカルプス
民間人:ナイアル・ポー教授
無所属:S・TAGAMI

───しかし・・・ピドードラム制御室にいるのが、イルカとタコってのは・・・、どんなもんなんだろうね?

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2253年06月09日 from the heart.

仲間を失っても傷つかないほどの心なら、こんなに苦しまずに済むのかも知れない。でも、仲間を守りたいという想いがある限り、失った時の痛みは消えない。
グレートワイズマン最大の遺産は、俺たちが抱くようになったこの心というヤツかも知れない。最後の最後まで諦めない力を生み、時に誰かを傷つけ、それ以上に自分を傷つける、この厄介な代物。

[黒衣の女性]ブランカは言うわ・・・。本当の力は・・・、身体にも船にも・・・、・・・機械にも宿らない。力は・・・心に・・・。ただの心が・・・顔をあげて努力を始める時に・・・、力は・・・宿るのだと・・・・

・・・だが、なぜそれをこの俺に持たせた、救うために殺すという矛盾を抱えたこの俺に。
そう尋ねた時の、開発者の言葉がどうしても想い出せない。代わりに甦るのが、このBLの言葉だ。
では、“究極の専守防衛システム”が成立するためには、仲間を想う「心」は必須だったとでもいうのだろうか・・・?

───兵器に、心なんて要るのかよ? 俺は、かなり捨てばちにそう呟いていた。

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2253年06月09日 追憶

ヘラス出港後の第2ハンガーデッキ。
RBの操縦訓練を終えて希望号を降りた俺と、ちょうど士翼号から降りてきたタキガワの、目があった。
タキガワはすっと俺に近づいてくると、いつもと変わらない様子で俺に声をかけた。

[タキガワ]・・・あのさ、ドランジが、あんたに伝えてくれって・・・。信頼しているよとかって言ってたけど。
[ユーティス]・・・・・・ッ。

ドランジ大尉からと聞いて、最初は、遺言かと思った。
だが違った。いつもの───ただの伝言だ。でも・・・、何でこんな時に。

 ・・・誰かに伝言を頼むのは、そうしないと捕まらない場合も確かにあったが、残りはみんなのちょっとしたゲームだった。
誰かと誰かを逢わせたい時に、あるいは、ただそれぞれへの親愛の表現として、誰かに伝言を頼む。そんなものだ。
 だけど、始終ハンガーデッキで顔つきあわせていた俺達3人が、誰かに伝言を頼む理由はない。だからきっと・・・それは大尉なりの友情のしるしというか、そんなものだったのだろう。俺と、タキガワと大尉、3人の。

[タキガワ]・・・・・・
 でも、大尉は死んじまった。いつも、黙って俺達のしんがりを務めてくれていた大尉は。
[ユーティス]・・・・・・
・・・タキガワも、こいつなりに、俺に伝えるかどうかをためらっていたのだろう。これじゃぁまるで遺言だと。今さら伝えてどうなるんだと。

 俺は、硬い表情のままのタキガワの肩を軽く叩いた。
[ユーティス]・・・サンキュ、タッキー。わざわざ、ありがとな。
[タキガワ]・・・・・・
 俺が礼を言うと、タキガワは何度も神妙に頷いた。

───俺が来て、1年。・・・また、ふたりになっちまったな。タッキー。

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2253年06月08日 悲劇が終わらない

ヘラス制圧作戦は、失敗───いや、惨敗に終わった。
陸戦隊長 ハリー・オコーネル 元 太陽系総軍中佐、および陸戦隊員31名が、戦死した。

・・・起きてしまった事に“if(もしも)”はない。隊長が代わらなければうまくいったのかとか、水雷手のままなら死なずに済んだかもとか、そんな事は誰も言えない。

 [マイケル]・・・ハリーは、世界一の武人だよ! ハリーが来たからには、この艦は大丈夫さ───!

あの時のマイケルの、彼を信じて疑わない金色の瞳を思い出すと、つらい。
ハリーは覚悟の上だっただろう。しかし・・・遺された者はどうする?

 [ハリー]・・・たまには芝居を観たいな。小さい頃、叔母がよくオペラに連れて行ってくれた・・・

 これがあんたの幕切れか? だったら、とんでもなく酷い悲劇だよな、ハリー・・・

 ───ハリー・オコーネル 元 太陽系総軍中佐、2253年06月08日 戦死。

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2253年06月07日 暗黒のメモリアルディ

 第一種戦闘配置。相手がネーバルウィッチの討伐艦隊と聞いて、俺はわずかだが、嫌な予感がした。でもそれを振りきって、俺たちは出撃した。
 そして、彼女らとの戦闘は、思いがけず長引いた。半数を叩いたところで、まず俺の希望号が着艦・補給、その後タキガワ機が《夜明けの船》に着艦した。
 俺の再出撃に要した時間はわずか3分。タキガワ機も、わずかなタイムラグですぐに再出撃してきた。さすがの整備班だ。
 しかし、ネーバル艦隊はさすがに巧妙だった。ひとところにかたまらず、散らばって逃げる作戦に出たのだ。最後に残った一隻、高速補給艦を捕らえるのにてこずった。その間も、ドランジ大尉が着艦する気配がない。士翼号の行動限界が気にかかる。先頭の俺が必死に最後の一隻を追うが、相手も海軍魔女と呼ばれるほどの手だれだ、そう容易には射程内に捕らえられない。一隻の補給艦に3機ものRBでかかる事はない、この艦は俺に任せろと伝えたいのだが、RB同士に通信手段はない。心ばかりが焦る。
 ・・・もう少しだ、もう少しで敵艦が希望号の射程内に入る───、そう思った時だった。

[MAKI]ドランジ機、行動限界! 圧壊します!!
[ユーティス]・・・・・ッ!?
 一瞬だった。わずか一瞬で、ドランジ機を示すグリーンのトライアングルが、トポロジーレーダーから消えた。
[MAKI]───ドランジ機、圧壊!

[ユーティス]・・・大尉───ッ!!

思わずそう叫んだ───直後、俺の中で何かが切れた。
俺は・・・おそらく獣のような咆哮をあげながら、ネーバルの高速補給艦に追いすがり、力いっぱい剣鈴で斬りつけた。一撃で沈んだ。だが・・・遅すぎた。

[MAKI]・・・ドランジが、死亡しました。

 何がスーパーエースだ、何が世界決戦存在だ、戦友ひとり守れないで・・・ 《夜明けの船》に着艦し、エンジンを切った希望号のコクピットで、俺は泣いた。

───あんたはいつもそうだよ、俺達には冷静に状況を見ろとか、深追いはするなとか、常に機体に注意を払えとか言って、自分はいつもムチャするんじゃないか。真っ先に敵に斬り込んで、最後までRBに補給しないで、いつも俺達のしんがりばっかり務めてさ・・・あんた、いつもそうだよ・・・だからタキガワだって、あんたのこと心配してたんじゃないか・・・デカいのにほっとけないって・・・それを・・・

 冷えきった機体からいつまでも降りない俺を、ハンガーデッキの誰も、とがめなかった。

 ───カール・T・ドランジ大尉、2253年06月07日 戦死。

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2253年06月06日 太陽になった男

───都市船タルシス停泊中───

[ニャンコポン]昔の話ねぇ・・・太陽になった男の話はしたっけ。
 「さすがは、世界決戦存在ね・・・」という、謎めいた言葉で俺に声をかけたニャンコポンは、そう言って話し始めた。
[ニャンコポン]彼が世界になったんだけど、その彼が今、困っているの。
[ユーティス] ・・・え?
[ニャンコポン]世界には意識はないけど、きっと困っているだろうって話。
[ユーティス] ・・・・・?
[ニャンコポン]そして、あンたが、落ちてきた。
[ユーティス] ・・・俺が・・・?
[ニャンコポン]世界は、いえ、あの男は、ちゃんとわかってるのね。身体をなくして意識をなくしても・・・。優しさだけは、前のままね。
[ユーティス] ・・・・・。
[ニャンコポン]貴方は暁。夜明けの船に乗る暁の風よ。───覚えておいて。貴方は世界に選ばれてやってきた。世界は選択したのよ。貴方とともに戦う事を。

[ユーティス] ・・・世界決戦存在・・・って、そういう事か・・・?

 ニャンコポンの言葉は、いつも俺のメモリーバンクの中の『何か』にリンクする。ただ、俺にはそれがどこに繋がっているのか、それが浮上する時までわからないだけだ・・・。

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2253年06月05日 制圧

早朝、希望号の修理が完全に終わってないってぇのに、地球地上軍の補給艦隊と接触。俺は一瞬、士翼号4を使おうかと思ったが、希望号の整備率は90%。できない数字じゃないし、何よりタキガワ機の整備率がまだ70%強と聞いて、俺は考えを改めた。俺ばっかり有利に進めるわけにはいかないな。───俺は艦長の勇ましい演説が流れる中、踵を返して希望号に飛び乗った。
出撃(で)てみると、大艦隊敗北の報は補給艦隊の耳にも入っているのか、敵艦隊はすでに撤退を始めている。護衛の艦船もそう多くはないし、こりゃいい獲物だ。目立った戦闘もないうちに、タキガワ機が一度に三隻を武装解除。俺も魚雷は叩かず回避しながら、数隻を制圧した。人材60名と食料、それに武装少々を確保。寄港したら、まずはRB整備班を増強させてもらおうかな。

───同日昼、《夜明けの船》はタルシスに入港した。上陸許可? なんですかそれ。士翼号の整備に追われていたタキガワがぶっ倒れたので(ほぼ同時にヤガミが倒れたとも聞いたが)、俺は黙ってその後を引き受けた。俺が士翼号に乗り込むのと同時に、BALLSの一体がぴょんと跳ねて士翼号の肩に飛び乗った。お前も手伝ってくれるのか、サンキュ。こちらも倒れるの覚悟で士翼号をパーフェクトに仕上げ、ローディング内容を確認してこれでひと段落。ヤガミ不在の飛行長席で人事をやらせて頂いた。・・・いや、戻ってくるなりまた倒れるまで仕事するし、アイツ。

120人の再配置は、さすがに夜までかかった。ようやくやり終えて、見ると、アストラーダ艦長もまだ頑張っている。俺は彼女に、夜食でもどうですかと誘った。
[エステル]・・・ええ、それじゃ喜んで。
そういうわけでエステルに手料理を振舞い、自分はニャンコポンと艦の配給食を食った。

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